涼男子め!

大恋愛どんどん! イケイケ!! 

気にするこっちゃない。 運命の糸!? タイミング!? ではないのだ。ただひとつ意思だと思う。

 

 

「受ける―ぅ!」 「『キミたち』なんて云うんだもーん。大学生かと思っちゃたぁ」

「すんません。そんな『ツモリ』じゃなかったんですけど……」

小高い丘から海を臨むペンションに宿泊客として訪れていた朝吹令愛れあとついめんら三人の友だち。このペンションで、かなり昔に建てられた建物と聞いたがポピーの花が色とりどりに飾って、ひと夏だけのバイトをしに来ていた藤原けん――遊びと部活のテニスでは何回も来ていたが。

二人の物語が動き始めた場所となった。

 

――この夏、東京駅からスーパービュー踊り子号に身を任せ、車窓から大海原を眺めながら1時間51分。

着いた伊豆高原駅は、北側は高原口(桜並木口)、南側は八幡野口(やまも口)と呼ばれていた。

 

何度訪れても飽きないスポットとなっていた。

賑やかなのは南側出口の方。もう一方は、リゾート地らしく別荘を扱う不動産屋等があって、でっかいレストランも臨める一帯。

桜を観たければ、駅階段を降りた北側の方。このタクシー広場を抜けると田園チックな光景が、三月には桜並木がまぶしく、広がっている。

もし腹が我慢できなければ、駅舎にはいろいろな食い物屋も集まっていて、駅員皆の服装がアロハだったり――観光地らしい! 

何よりは、その気になれば日帰り旅行も楽勝なくらい近いリゾート地――関東の人たちには利便性マッハこの上ない地域……行くと毎度毎度!! 連泊してしまうが。

 

3月から四月にかけては、高原口の方から出ると両側から包み込んで来る桜並木は3kmにもわたっておよそ600本の花のアーチがはっちゃける!――恋をしてるかのように! たとえ恋人ナッシングでもうけあうぜ!

この坂を登りきって左折、緑に囲まれた途を程なく歩くとこのペンションに到着。客室数41・収容人数152、このくらいの規模になると、もはやリゾートホテル並みの規模を誇った建物と言える。

 

これより数か月前。健はリビングの食事の団らんで「俺バイトすっから!」

「なにもしなくたって。お金に不自由してないでしょ」と母は云い。

「まぁ、仕事とはどんなもんか一度は経験しておいても悪くはないだろう」と云ってくれた父。

「やった―! 時給2千円に夜勤手当は別に付いて3食付に宿泊代もタダ。まっかせて!」

「何が任せてなの!? 何にそれ使うつもり?」

「とりま貯金。それよっか一度自分で稼いでみたくて。しかもテニスコートはタダで使い放題に空気は綺麗だし。綺麗な証拠にね『何を食べてもすっごく美味しい。空気のせいだわ』ってFBフェースブックにも書いてあったから」

「ホォ―、では一度泊まりに行ってみましょうかねぇ。ねー! あなた」

「来なくていいからね」

「どうして?」

「保護者同伴はハズィよ」

 

 

「良い名前ね、タケルって武尊タケルノミコト連想しちゃう。(「たけると武尊はちゃうだろ!」)どのくらい背丈あるの? 大きいからすっかり大学生かと思っちゃったぁ」と名札と健の体を見て訊く高卒生たちのジロジロする六つの目。

「ケンです。そう! 身も心も健康に! と親が決めて。既に親を抜いて191っす。皆さんは高校同級生の仲良し組旅行ってやつなんですね?」

「デカ! 私、令愛。こちらの二人も今度大学だよ。それで卒業記念旅行にここにしたの」

「仲良し記念ってのがいいですね。んーっと楽しんでください! ここはそゆ所ですから」

 

「感じいいやつだね、うち、高校生だなって思ってたよ」

「どうして?」

「脚の脛毛すねげ未だ薄いんだもん」

「よく見てるね」

「令愛だってよく見てたじゃん」

「いや! 自棄にノッポだかったからネ」

 

例によって夕食後が大忙し。食器類洗いにテーブル、椅子、装飾丁度類の拭き掃除に、明日の仕込みまで。

やっと終わってペンション裏手の一角で、チョコアイスバーを口にしながらつかのまのチャージを享受している健。

空の星がキラキラ、そして、時々思い出したかのように吹き上がって来る心地好い浜風、と、星とそよ風が、伴にコラボし合って、身体をくすぐる、癒してくれていた。

そこへ、あの新大学生3人が「ご苦労さん!」と云って現れる。

たばねていた髪を下ろした者、食事時より濃いメイクにした者、皆其其それぞれに。

「グッズショップこんなにいっぱいあるんだもん、買っちゃったぁ!」

「あるね。確かに、見て、ずっと観てると、いつの間にか買ってるよね。でも夜間の女性歩きは控えた方が良いですよ」

「もーぉ、ナンパされたから」と一同ケラケラケラケラ!

「あっそっだ、待ってて!」と云って戻った花火を手渡すと「私もお線香花火がイチバン好きー」

「いやこの辺では打ち上げ花火が禁止になってるんだ」

「あぁーね。建物が多いからだね」

「うん、以前、花火が原因で出火したペンションがあったんだって」

「見て見て!! きれーいーぃッ!」

「火玉が大きくなったり小さくなったり、時系列に合わせて火花が四段階に弾むからね。この嗜好になってるから線香花火が好きなんでしょ!?」

「うん音もしないしね。ねーぇ! 教えて! この辺イチオシなスポット!?」

「そーだなぁ、あり過ぎて。大室山、伊豆シャボテン動物公園、(ぐらんぱる公園は広いだけでつまんないよ)、一碧湖、伊豆高原駅の散策道、城ヶ崎海岸、四季を通じて花が咲く伊豆海洋公園、連泊なら専用テニスコート11面――インドアコート4面・屋外オムニコート7面――を完備してるテニスコートもあって学校全体が来ても受け容れられる設備も整っているから。自然の中で思いっきりテニスをしたら腕が上がること間違いなし! まだまだあるよ。ペンションの玄関にパンフがあるから見てみたら!?」

「案内してくれたら嬉しいなーぁ」

――男子は女子の前でガツガツしない。クールひかえめに めだってにするを身上しんじょうとしていた健は「明日の仕込みの続きがあるんで」と出任でまかせに喋舌しゃべって、わざと格好良く長い手足をサッサッと振って奥へ行った……実際はダサだったか? は関係ない。要は気取って見せたかったのだ……ガツガツうえてむやみにほしがるほど見苦みっともないものはない。

だから肉食系男子は、初対面の人とも臆することなく会話にガンガン入って行くことができるが、万事がこの調子だから倦厭けんえんもされるんだ。

恋愛論となると、各人各様だろうが、基本は「オシャレ」にしていきたいもんじゃ!――

 

「令愛があんなに素楽素楽すらすら男子と話すの初めて見た」

「何云ってるの。あんただってあの子にいろいろ訊いてたじゃん」

「うん。だって将来お医者さんなら玉の輿だわ。彼女さんいるのかなぁ?」

「あらぁ! そうなの。じゃぁ、訊いてみたら!?」

「しかし、シッカリしてる。高2には見えないわ……」

 

「とても年上には見えんわ」 「ぶりっ子かなぁ!? いや、女子はツンツンしてるより kawaii に限るわ」

窓の外のお月さんが彼方の雲間から出たり入ったり、夏はもうそこまで来て足踏みしてる。真上に出始めていたお月さん、健もベッドに入り、脚をお月さんのほうへ大きく突き出してzzzZ。

 

 

「オッハ! 昨日の女子たちイケやん、お前随分仲良してたじゃん、羨まし。「 KP やーん(隠れビッチ。やっちゃえば)と冗談だか本気だ分からない云いようをして来たバイトの男子大学生。

「話して楽しければいいんだよ。それ以外に――俺には関係ないから」と応えた健……朝からウザいやつ!

それでもお前男かよ? vs. 君はそれを恋と思ってんのかよ?(恋を公衆便所と勘違いするな!)

 

すでにダイニングルーム前辺りにはお客さんたちペチャクチャ、一人ひとりに「おはようございます。お席はあちらの方へ」と入り口で薄く少ない髪を整えたオーナーが云っていた。

「お早うございます。ご飯は半分にしておきました、その分サラダを多めにしておきましたので」 「お早うございます。昨日のお肉美味しかったです、シナモンとバジルの香り、あんなステーキ初めてで。また来ますね」伊豆高原宿泊料金は一万円前後が相場、ここは税込17200円、これなら旨くて当然だろ。

「ありがとうございます」

「あのぉ、今日何所へ行くか迷っているんですけど……」

城ヶ崎海岸は如何でしょうか!? 海岸線沿いに絶壁が幾つも重なって、深く入り組んだ岩礁と岬から岬へと続く眺めはまさに壮観です」 「ぁーあ! 藤原君!」

「ハイ、何でしょうか?」 「こちらのお嬢さんたちを城ヶ崎海岸へ案内してやってくれませんか!?」 

と KP な男子が「オーナー! 俺ここらへん詳しんで」 

「あ、君は庭の清掃があるから」と余計な飛び入り大学生バイトは断られ――やっぱなぁ、肉食系男子は危険だ、被害はペンションオーナーに及ぶかもと察したオーナーだろうか。

「ハイおけです。でも一番忙しい時間帯に良いんですか?」 「その分の時給は引いておくから嘘ですよばかわらいカッカカカカカ。案内が終わったら戻ってきてくださいね」変な冗談に変に真面目な言いようをしたオーナー。

 

「吊り橋は長さ48m、高さ23m、スリル満点! 下を見ないで! 時々しっかりチラッと見てね!w さあ!渡ろぉ!」と健の後に続いて。

行けば行くほど途中で橋は、左右に上下に、揺れるし風の吹き具合でユラユラしてキャキャ!! と絶叫しながら渡り終えた三人は笑顔満点。目にはナミダ。

「もーぉ! ジェットコースターっ! トイレ行きたくなっちゃあ」

「あっ、その先を五十メートルほど下ると囲まれたラシキ所があるよ」

「う? どゆう意味?」

「天然トイレさ。ここへ来た前の入り口にはあったんだけどぉここには無いから」

「戻った令愛と友だちの二人。初めてぇ! あんな開放的なトイレってぇウッキャキャキャキャキャ」

「だろ! ハッハハハハハハハハ」

「こんなの初めだったけど――来た良かったよ――『ヒューゥ! ヒュールルン!』うわっ! カモメちゃん!」

「そ! きっとイイことあるよ」

「ホントにぃ!?」

「あぁ! きっと玲奈さんたちに! 地球は生きてる! って歴然まざまざ実感するよね。またチャンスがあったら来てみて。他にもきっと気に入ってくれるスポット満載だよ」

「うん!是非是非!! 交換しない!?」と素直な空気が応援して人はアドを交換し合った。

アップルロゴ入りのスマホ高そ、俺のは日本の技術と製品で出来上ったファーウェイ中国製だ。(ちな、そんなことも知らない何処かの花札だかトランプだかの大統領は『アメリカの技術を盗んだ。5Gで国家の機密が漏れる危険なスマホだ』というアホレべなお方よ」

だったら何所が危険か、具体的に云ったことがあるのかよ? 無いから云えないなんだ! 日本の技術だから安心なのだ!

こんな変装カツラ大統領に騙されないように!)

「あ、そろそろ戻らないと時給引かれるから、じゃ俺は行くんで。楽しんで!」

 

 

 文一類(法学部に進学し政界・法曹界へ進むコース)に受かって東大駒場校での令愛の初授業の日。

「みなさんも知っての通り。行動分析学は行動心理学といって、アメリカの心理学者であるジョン・ワトソンが1912年ごろに提唱し、今になって注目されるようになった心理学ですが、それまでの心理学に異を唱え、人間の行動には原理原則があると提唱した極身近な学問となっています。学術的には行動主義心理学という領域に属します。たとえば。充実感を得る四つのコツがあるのをご存知でしょうか。(長ーいーなーあー。でも気になるしなぁ)『一、休暇を採ること、一日より二日と多く連休を入れる』 『二、プチ旅行をすること、長期旅行より三泊程度が理想で遠くではなくあまり行かない場所へ』 『三、出掛けるときは好きな事をしに行くこと』 『四、身体を動かすようにする事、少なくても一日に数回はそのなかのプロスペクト理論というのがあって、“得をするよりも損を避けたい”という意思決定』に関する法則で次の……(もぉ! いい!)」

 

聞こえていた。が、聴こえていなかった。よくある大学の授業風景。

令愛のノートの隅に、あの城ヶ崎海岸で健が「『地球は生きてる!歴然まざまざ実感する。この実感に値するように生きよう! 実感できる恋をして行きたいね―!』」と云った言葉がよぎっていた。

授業に身が入らず「青春! 青春! 健? 歴然まざまざ実感」と殴り書きしていた。所々にハートを描いて、ひとりの女の子になっていた。

 

 

健の春休みの登校日。

休み明け直前の最後のスケジュール、この高二の時に文系と理工系とにクラスが別れナンタレとこれからの1年間のガイダンス説明があって、クラスのツイメンたちと、文・理工の両カリキュラムを見ながら、コミュをしていた健たち。

「春は、猫もカラスも誰もが魔法をかけるとき。僕は彼女に魔法をかけるぞ。恋以上の幸せはないんだよ!」と頓狂とんきょな声を発した同級生のすぐる

「やっぱお前は文系だ」

「文系がダメみたいじゃん」

「ダメとは云ってないよ。実現できそうもないことをテンコ盛りな言葉で逃げてると云っただけだよ……ワリーなーぁw」

「何いッ! 同じだろ。健はどうなんだ? って、オマエんちは良いよな、親が医者だから直ぐになろうと思えばリッチになれるし」

「俺な。壊れたの治すはやなんだ。新しい物が好きなんだ」

「何だそりゃ?」

「患者さんは皆壊れている。治って当り前。治すのに欠陥品を、第一、体を触るのはなぁ……それよりも新品ピカピカを創ってく方が俺的には向いてるんだ」

 

「わかる!健くんの考え! 私も新しい数学の世界を拓く方が楽しいかなって」

凜緒りお、マジかよ。数学じゃメシ食ってけねぇよ、学校の先生になるのが落ちじゃねえの!?」

すぐるも凜緒も云ってることは一理あるよ。でも時代だ。数学が無ければプログラミングは限界に達する。第一この世の全ては数学から成り立ってるんだ。プログラミングを支配するのはアルゴリズムってやつで――受け売りだけどな」

「へーぇ! すごい! 健くん、今度教えて!?」

「って、健! 何だそのアルゴリズムって?」

「数学よ。高等数学よ! 豪くんは3だからなぁw」

「あ、凜緒、馬鹿にした。4だぞ」

「ごめんなさい。ホントのこと云って」

「ま、いいじゃないか。豪の想像力はピカイチなんだから」――だが、少しも「想像力」と思っていなかった。「妄想」だわ、と思ってるけど。

「よく分かんねえなぁ、理工オタクの云ってる事わ」 vs. 「言葉だけの飯事ままごとを楽しんでる文系オタクよりはましだわフーン!」

 

 

春休みが明け、本格的に高三の授業が始まっていた。

二人が組になって、三組が、五組が、となってクラス中の皆んながワイワイし始めていた。

生徒各自各班と先生のパソと直接連動していて各組毎に進捗が異なる授業システム。

これからはこういう授業が流行ってけばいい、個人個人の個性に併せた授業となるからだ――『教育・・は、教えることではない、|一人ひとりが自らの可能性を見つける・・・・・・・・ってことよ! 夢は一人ひとり違うんだ。教育では無理ってもんだ』

ナルホー、ではリアとなると授業の目的は何だ?

人間成長だ。

これは表向き。

最終ゴール点は学歴社会だ。

出世は学歴次第で決まる時代だ。

だったらそう・・真剣にならない方が可笑しい。

 

「あんね、アルゴリズムっていうんだけど。数学アルゴリズムが得意じゃなくてもプログラムはできるよ。でもせいぜい小学生レべのゲーム作りまで。数学を知ることでプログラミングにおける近道を見つけることが可能性を広がるんだ。

実際に最適化されたプログラムというのは数学的に裏付けされた形で記述されるものが全部。

最近では、行列計算に特化した GPU を使うことで、画像処理や機械学習に必要な計算を効率的に実施することができるようになって。

自動車の自動運転、人とモノと地上と空との全一体になる認識テク、グーグル、スマホ、位置情報、宇宙ロケット、医学、どの道も数学力つまりアルゴリズムが優秀であればある程、例えば、自動翻訳だって即できる時代になってるでしょ。

プロの将棋棋士だってAIに負けてるとは限らないんだよね!?」

アルゴリズムがイマイチってか。ひとつの例え、代官山駅を 2019 年 12 月 24 日 11:34 に出発して銀座駅までなら、コンピュータでならそれらの『全てが一瞬で計算』できるという計算術のようになもの)――(それにしても長い会話文は、途中、意味不になりそ。「1文の長さは50文字以内がいい。短すぎは、例えば『うん』たぐいは、国語力馬鹿と取られかねないので」と云われてるがゆうに2百字以上を費やして、文章力素人マッハと識る)

 

「健くんに賛成! 数学はゲーム以上に楽しいのよ。正解や道筋が1つではなく自由で、アイシュタインのように、光は一年先も百億年先も一直線! ちゃうよ、曲がることも!――光にも重さがあるから、下がる、曲がる! 二つの並行線は交わる! 宇宙は無限だ! とんでもない、宇宙には果てが有る! だと云ってるように『毎回新しい複数の発見」を与えてくれるの。文系は違うわ、常に答えを一つにしたがるの――侍魂は世界一、女性は家庭を守るモノ、のように」

「おおー! さすが才媛様」

「誉めすぎ! 誰かが言った言葉を真似しただけだから」

 

豪は黙ると負けと思って「ふーん。…………」 「知ってるか? 文系は理系と違って、色々な可能性をもとに議論して、創造性豊かな社会の前面に立ってリードしてるだぜ」 「それにしてもお前ら仲いいな」

「創造ねぇ。会社の社長が会社を興し倒産して、多くの人たちに迷惑をかけたり。人気のある小説を、論文を、絵画を、等を発表して一過性の発熱だけで終わったり。な!?」(しかも、短気な人が多いのが文系の特徴や!)。

「何それ?」(「理系は、確かな確率性を探し求め、一つ一つ積み重ね、ある事柄やモノを生み出していくもの。しかも大学で暇人は理系か? 文系か?」と健は言いかけたが、止めたっと!)

 

健と玲奈、春の空のもとを久しぶりにデートしていた。

「これ! 欲しかったから」 

「そんなのならイチイチこの文化祭で買わなくても」

「だったら代わりに買ってくれた?」

「云ってくれたならね!――じゃなく、もっと他になかったの?」

「五月祭あるよ! 来て!」という誘いで「UTokyo」ロゴ入りのスエットを買ったのだった。この文化祭は5月に本郷キャンパスで開催。11月には駒場キャンパスで開かれる駒場祭との二つがあったが、今日は本郷に令愛と来ていた。

少し散策すると「浮島に松かぁ……小さいけど大きく感じるこの平和しずけさ。深い森の池(育徳園心字池。通称、心字池。造語、三四郎池)って感じがする。その象徴が池の真ん中の松だ」

「象徴って?」

「周りの木々の影響に飲み込まれずいつもデンとした姿。誇った風景。これがこの池の顔をしてると見えない!?」

「なるほ。一年中青々してるもんね」

「でしょ! どんな環境下でも健やかに強く生きろ! とってる」

「理学部志望の人がそんな詩的な捉え方するの珍し」

「そうかな。数学でも工学でも医学でも天文学でも、むろん文学だって、極めるとどれも詩的になるんだって。詩って『命の躍動感』だって、誰だったかな? まー、よく聞いたことがあるよ」

「そっかぁ!……躍動感の無い目的って変だもんね」……令愛がどこまで分かって云ったかは別にして「特に恋愛こそ躍動感“要!”」と健は日頃から内心おもっていた、いや、そう思わせることにしていた。

 

そ! 文豪さんも!

かの夏目金之助漱石)さんは、かつて躍動感を張り巡らした地が、この池だった。

(逆境に在る者ほど、燃えなくてどうする!)

金之助さん、1890年、東大生になった頃(当時の偏差値は決して高くなく60強あれば受かった時代だが)、幼少より近親者に恵まれていなかった上にこの時期次々と兄弟二人の死別に遭う。心に深い傷を受けていた筈。当然、躍動感とは疎遠な暮らしに陥っていた。

が、しかし覚めた。当時の金之助さんの文筆曰く『女はこの夕日に向いて立っていた。三四郎のしゃがんでいる低い陰から見ると丘の上はたいへん明るい。女の一人はまぼしいとみえて、団扇せんすを額のところにかざしている。顔はよくわからない。けれども着物の色、帯の色はあざやかにわかった。白い足袋の色も目についた。鼻緒の色はとにかく草履をはいていることも(やはり変わらないのは全体的に文語調)』――もう、そう思い巡らした段階で、既に、好意は始まっているのだ。誰がつまらないことを、観察なんかするもんか、イチイチ考えるもんか、でないということは既に恋は始まっているのだった。

 

「なるほどねえ、漱石さんも唯の男だったのね、安心したわ」

「そうだよ、互いに共通項があると美しく収まるんだ」

「ところで、令愛さんの法学部の目的ってなぁに?」

「『令愛!』って呼び捨てでいいから。司法試験目指そうかなって。国家公務員って手もあるけどヤだぁ、政府のパシリなんて」

「官僚かぁ、いや、パシリじゃないよ。キャリアとなれば金持ちになれるでしょ」

 

今日も令愛は予習をしたうえで授業に就いていた。

解り易くなるからである。

すると「あの人彼氏?」と顔を覗く合田。

又来たかぁと「友だちだよ」と応える令愛。

「仲良さげだったから」と突っ込む合田。

「私、司法試験受かるまで恋人持たないから!」 「合田さんも頑張って! 1コマ105分なんて直ぐ終わっちゃうから勝負勝負!!」(通常の大学の授業時間はひとコマ90分。だが近年1コマ100分、120分、実験や演習になると1コマ180分が当たり前のなか「学問は習うより自らの自助努力(授業よりも、学びは自らが勉強して掴め!)」が基本といって東大が格別……確かに予習なしで臨むと授業内容がイマイチになる)。

「朝吹さんちは財閥だから受かるっしょ」

「合田さんちのほうこそ。うち財閥じゃないから!」

三井財閥役員でしょ。いくらでもカネをかけて勉強できる環境にいるから受かり易いのは当然かなと思って(実際、一流家庭教師が数人、高額な費用を払って通う予備校との併せレッスン)」

「合田さんの方こそ一流住宅企業の重役じゃん」

「いやああ、財閥には負けるよ」

「あのなぁ、出世は財力じゃないよ、努力努力!!」

「バカ旨なイタリアン見つけたんだけど今度行かない!?」

「シ―ッ! 授業聴こえないよ」

 

オ―! いつもの我が家の燈! と健はホッとする。

家まで一直線! と小走りにスタスタと坂道を登り切ると、下界の街並みの明りが、宝石箱を引っ繰り返したような夜景になって帰ってくる。一瞬腹ペコを忘れていた。

玄関を開けると一変、暗雲が。

円香まどかちゃん!うちの子なのよ!」

「産んだ子と同じ子供! それ以上に可愛い子なんだから!」

父も母も必死に云う。

実の子でないと知って泣きじゃくる妹の円香、傷心に暮れる少女心、いまだ中三生。

 

母の妹が不倫の恋をしてて、いつまで経っても相手の男は「別れるからもうちょっと待ってくれ!」vs.「半年が1年といたずらに時間だけが過ぎ」と一向にらちあかず悩んでいた。

が、既に腹に子が宿っていて。妊娠四カ月、親の都合で堕ろすのは殺人――中絶手術は法律で禁止。その子を生むと決心。

やがて1歳になった我が子を抱いて歩いていた歩道で突然背後から突っ込んできた車に跳ね飛ばされてしまう。

瀕死の重傷だった。

翌日病院で冷たくなった。

かれる寸前本能的に前に抱いていた子をかばいながら十メートル以上も跳ね飛ばされ奇跡的に命だけは救われた赤ちゃん、円香である。「引き受けたるわ!」母も父もわが子として円香を実子とした。

運転していた加害者は、高齢者ドライバーが流行ってるが、水泳のオリンピック強化選手だった「ブレーキを踏んでも突然勝手に車が暴走した」と当初は言い訳をしていたが、ドライブレコーダーや屋外の監視カメラ等の画像解析で、スマホを見ながらの運転だったと判明。

時速60キロで「アッ! アブナイ!」と気付いたときは既に1秒に17メートル行ってしまう車の特性、脅威だ!

一瞬の脇目が一生の後悔となる。

――危険運転と判定されると最悪20年の懲役刑になるとことも。(自動車運転死傷行為処罰法の第2条及び第3条。重罪の場合は20年以下の、旧法は十五年以下だが、懲役に処する。ほんの一秒の 1/5 のミスが20年牢屋から出られないんだよ)

出所後は仕事も家庭も再就職先もナッシングな例がほとんど。

これだけで終わらない、民事で莫大な損害賠償を請求される。あああ、一生貧乏の底だ!

強行法規だから一生逃げられない。(都会で車を所有する意味が解らない。単なる見栄を飾ってるしか見えない。買うやつはTVの観すぎだわ。コマシャールは麻薬だ。郊外にドライブに行きたけらば公共交通機関の方がはるかに速いし経済的。何よりは、『安全快適!』)――

(強行法規とは、当事者間の合意の如何に問わずに国家権力によって強制的に適用される規定。話し合いによって各人が変更することを認め合うのが「任意法規」

だからね、車は買わないことにしていた。買えば危険と裏腹一体。なになに自分は慎重だし腕に自信があると!? 大型トラックの方が突然つっこんできたらどうする? それでもマイカーを持てば維持費を政府にいっぱい払うことになる。都会にはいくらでも移動手段があるっしょ)

 

リビングに入れずじっと聴いていた健は悔しく、哀しく、握り拳となってたたずんでいた。

ヨーシ! これでキメ! 家業の跡継ぎは妹だ。

ベッド数11の小規模クリニックのオーナー院長である父は、祖父まで「二代目は健がなるから!」を語り草としていたが、健には継ぐ意思はない数学系の大学を目指していることに「そんな食えないことばかりしていずれ気づく」的な思いでいたようである。

今回、これで妹の円香にも大きなビッグチャンスが転がりこんできた。

何よりは妹の将来が安定して行くことである――本人にもその意志が無ければ別であるが――日頃から結構ワンちゃんやニャん子の面倒見が良いから大丈夫だ。

 

 

夏休みも近くになったころ。

東急文化村の席に座していた令愛のひじが時折くすぐったくなっていた。健は、演奏中のリズミカルなおとと共に伝わってきていた、心地よかった、柔らかく胸を揺すっていた。

観覧後、隣接した「ドゥ マゴ パリ」で口元に遣っていたカップを置くと「チャイコフスキー大好きー! 何といっても『派手さと豪華さ』よね」と令愛は嬉しげな表情で継ぐ。

「『ピアノ協奏曲第1番』4分の3拍子 - 4分の4拍子、変ロ短調 - 変ロ長調、のソナタ形式雄大な序奏で始まるシンフォニックは壮麗そのもの。

まさに詩人の為せるマジックだ。俺も好きだ」

と健は呼応した。

 

「これ! これ! 第四幕が一番感動しちゃう」と語り始めた令愛。

序奏。

花畑でオデットが美しい花を摘んでいると、怖い顔をした悪魔ロットバルトはオデット姫のことを滅茶苦茶気にいっていたが、ついに思い通りに行かないことを根に持って、呪いでオデットを白鳥に変えてしまった。

第1幕。王宮の前庭。

今日はジークフリート王子の21歳の誕生日。お城の前庭には王子の友人が多く集まって祝福の踊りを舞っている。そこへ王子の母が現われ、明日の王宮の舞踏会で花嫁を選ぶようにと言われた。まだ結婚したくない王子は物思いにふけり友人達と共に白鳥が住む湖へ狩りに向かう。

第2幕。静かな湖のほとり。

白鳥たちが泳いでいるところへ優しい月の光が出るとたちまち娘たちの姿に変わっていった。その中で一際ひときわ美しいオデット姫に王子は魅せれてしまう。すると彼女は夜だけしか人間の姿に戻ることができ「この呪いを解くただ一つの方法はまだ誰も愛したことのない男性に愛を誓ってもらうなの」と告げる。これを知った王子は明日の舞踏会に来るようにとオデットに言う。

第3幕。王宮の舞踏会。

世界各国の踊りが繰り広げられているところへ、悪魔の娘オディールが現われた。王子は彼女を花嫁として選んだ。それは悪魔が魔法を使ってオデットのように似せていた者であった。その様子を見ていたオデットは王子の偽りを白鳥達に伝えるため湖へ走り去って。と、悪魔に騙されたことに気づいた王子は嘆き、急いでオデットのもとへ向った。

 第4幕。もとの湖のほとり。

破られた愛の誓いを嘆くオデットに王子は許しを請う。そこへ現われた悪魔に王子は跳びかかった。激しい戦いの末、王子は悪魔を討ち破るが、白鳥たちの呪いは解けない。絶望した王子とオデットは、自らの愛の真実を表するために、湖に身を投げて来世で結ばれた。とわの愛を勝ち取ってハッピーエンドとなる。

少しもハッピーエンドではない! 死んであの世で幸せに? ありえない。

が、物語を創作する上では余韻が残っていた方が良いのだろう。

 

「もし、真実の愛を現したかったのなら、死ぬことはないよ。生きてその証を見せるべきだよ。美辞麗句かたちじゃないよ、実感だよ、愛わ」

「健くん、私も同感。でも死んだ方が観客の心には残るからだよ」

「創作した事実と、現実の事実を、俺らはごっちゃ混ぜにする操り人形になっていないか!?」

「思ったんだけど、うちらって、いつ会っても新鮮な感じしてならないの……私だけかなぁ」

「月に一度や二度くらいしか会ってないからじゃない」

「なるほど……。普段はメール・電話、で実際のデートは数十日おきにかぁ。それで健くんは満足?」

「ああ! マンゾクだよ……」

 

もっとガツガツとデートを誘ってくれたらいいのに!

けど、急いで焦って結果を期待するより、このアツアツを維持てくためにも未だこの方がいいのさ。要は、長く思いを育みたいのだ、今良くても、先に壊れたくないのだ。

 

「ヒエ―ッ! 指紋認証錠・カードキーの門柱始めて見た」

「ww」

「じゃ俺は送って来た役目が終わったんで」

「お茶くらいいでしょ!?」

高さ三メートルもある鉄柱の門。

おごそかにくぐると、玄関が見当たらない。

やっと数分歩いて広い玄関が現れた。

お手伝いさん二人が現れ、一人が客間に案内、見たこともない家具調度類。

「こっち来て」と更に案内された令愛の部屋。

「フランス宮殿の家具みたい」

「フランスとイタリアのロココ調だよ。ローズヒップティでいい? 美容効果にバツグンなんだよ」と云い、続き部屋へ行く令愛――『ローズヒップティ』なるものがどんな物か知る由もなかった。簡単に『ハーブティ』といやーいいのに。

「こんにちわ。お姉さんが男の子を家に連れて来たの初めて。目の前に観たらナルホだわ」と微笑む女子。

「あら、やだーぁ! 裸の赤ちゃん写ってるのに」

「いやいや、お人形さんだね」

「あ、妹の栄令奈えれなです。私に似てないでしょ!?」

「初めまして栄令奈さん。健です。大きい……高校生?」

「中2です」

「ぁあソレ! 小学校の遠足の時の」と云って隣に座り直す令愛。イイ匂いだ。

階下からチャイムの音、「親ならどうしよ!?」すると「パパもママもパーティで帰国は明後日あさってだから」という栄令奈。

どんなパーティだ? 想像すらできない。

楽しかったけど落ち着かない小1時間だった。 

この宮殿もどきを後にする健。そうだったのか、やはり一流建設会社の重役のお姫様かぁ(会長が祖父だと、後に知った時はオッタマゲ)――俺には宇宙人だ。

閑静な環境。 

辺りはいろんな大使館や邸宅がひしめき合う麻布高級住宅街。小奇麗な毛利庭園を、宇宙飛行士の毛利衛さんたちが宇宙でメダカを誕生させた1万匹をここへ放流したというメダカたちを見たかったが暗いので、過ぎると、もう六本木の街並みが目の前に煌々と現れていた。

 

お茶漬けだ! やっぱ日本人だ! これでようやっと落ちついた。

「半熟卵、冷蔵庫にあるよ、入れたら!?」

「栄令奈まだ寝ないの!?」

「私も食べるぅ」と云ってお茶漬けの素を振り掛け、中にウインナーも浮かせ熱湯をジャブジャブ。

「お茶に卵、ウインナー合うな―ぁ」

「私の父親って? 何所かで生きてるんでしょ!?」

「…………」vs.「ま、気にしない気にしない!!」と、一旦口に出した以上は気にしてる証拠だ。なんと応えていいか躊躇した健。

栄令奈の母が腹身ごった相手は中国人で、その時は既に裕福な家の婿養子となって帰化していたが。その時の娘が今では国会議員として活躍してると知るが、既に亡くなった父にも、そして生きてるとはいえ姉にも、なにも今まで情を抱いたこともないのに、いきなり「ハイ、私が妹です」と今更出ていくのもどうかと思い栄令奈は行動を起こすまでにはならなかった……。

「あのな、パパが継げ継げと云ってるけど俺にその気はないんだ」

「あ、そのことね。私お嫁に行かない。継ぐから!……お兄ちゃんだってその方が夢を実現できるっしょ」

「そっかぁ! 明日パパに云うわ」

「もう云ったから」

「えっ」

最初驚いてたけどママがニッコリしてるを見たパパが「分かった!」するとパパがママの手を握り「これで一安心」と穏やかな二人の顔になって「大変だろうけど俺の目の黒いうちは栄令奈を守ってみせるからな!」

守ってって何だろうと思ったけど「守るのは私だよ」と応えると「いや、金を無心する族が居るからな。医療ミスと云って訴えることに備え『治療は医者と患者さんとの相互信頼、互恵協力の上に成り立って云々。ゆえに当病院では手術等の医療行為につき以下の通り承諾した旨の証として書面に印を押して上で臨みます』だったの。

「へー! オヤジ見直した! そこまでして栄令奈を守る!」

「私も! 見直した」

 

(「人はミスをする動物」というが。

しかし、「医療と運転と育児」だけは完璧であってほしい! 

点滴薬剤量を間違えて数日後に患者が亡くなった。

或いは、アクセルとブレーキを踏み間違えた。

また、相手を深く傷つけるような恋愛をした。

はたまた、前日までのアルコールが残ったまま飛行運転をして数百名の乗客命を奪った御巣鷹山JAL

等々、幼い我が子を虐待死させた、している、親。

「あぁーあ! 嫌だ!」)

 

 「朝吹さーん!」 「何?」 追いかけて来た荒い息のまま「去年のテスト問題ゲットしたよ。ゴッホン! 一昨年も同じ問題だったんだって、どう?」

さっそくスマホでコピペすると「ここのチーズケーキ美味しいわ」と愛嬌よい笑顔をサービスした令愛。

「知ってる?」

「何を?」

「あの心字池しんじいけの時のやつ、チャラ系らしいよ(健を指して云う)。池の形が「心」に似てることを悪用して朝吹さんにアプローチしたなんて……」

「そこへ健を誘ったのは私だよ。それに何? それ」

「いやね……又聞きだからホントかどうかだけど……いろんな女子とデート三昧だって」

「誰が云ったの?」

「ニュース元をいうと信義に反するから」

……そうかぁ、この野郎フェイクニュースで私を釣るつもりか。

 

 

 同級生の女子とくっちゃべってる健。 

「ずいぶん書き込みしてあるね」

「近衛(凜緒りお)さんの方こそ」

「なんで姓名で呼ぶのよ?w 藤原くん、いつもマイペース、自分は自分って感じでやってるよね。オーラあるってゆってるよ」

「またまたぁ、なんにも出ないぞ」

「凜緒! うちら先に行くから!」

「はぁーい! バイバイ!」と云って凜緒は、内心、その友だちに精々――健と二人だけで話したかったから。

「藤原くんもバイビー! 凜緒口説いちゃダメだよーぉ」

「あのりおできるからだって」

「誰が?」

「さっきの凜緒の友だちが。河合塾テストで偏差70越えたって!?」

「上がったり下がったりの落差が大きいと駄目なんだってぇ、先生が言ってたー」

「人間の価値判断もらしいね。好い時と悪い時が激しいやつは悪い方で判断されるって何かの本に書いてあったな」

「らしいね。自己顕示欲が強過ぎる人がそうなるんだって」

「そ! 中庸ちゅうようが良い!」

「何それ?」

「バランス! ギリシア哲学で対立項の中点に立つ『調和的存在』を初めて考えたのはピタゴラスで、これを倫理学的領域に導入したのはプラトン。これを和製語で『中庸』ってゆんだって」

「なんだこいつ!知ってんじゃん」ハッハハハハハハハハハ轟く二人の笑い声。

「ねぇ健くんって呼んでいい?……それとも、令愛ちゃ、本命だったりしてーぇ!?」

「いや、心友だよ」

「ウレピー! 健くんのこと好きになったらどうしよ嘘ですよw」

「いえいえ、令愛といつもいつもベッタリじゃないし、会っても多くて週一くらいだからね……」

「実は、うち、その辺を調べて、健にアプローチしようっかなぁって作戦してたの。私、悪い女?」

「いやいや、気にすんな」

「うん! そいやー、数学教えて貰ってもいい?」

「任せろ! 数学だけわ! C++シ―プラプラを!あとこれを発展させたC♯シ―シャープPythonパイソンもね」

(理工系の大学や専門家の前で『プラプラ』と呼ばない方がいい。ああコイツ素人と馬鹿にされるからね。その時は『プラスプラス』だよ、教授始めプロはみんなそう呼んでるからだ。あと正確にいうと小学校で現在やっているプログラミングはプログラムじゃないよ、只のアプリだからね)――(アプリって既にできあがったプログラムってこと。参考までに、習うなら早ければ早いいほど有利、行っても二十歳代までに! 但し文系 DNA の方は無理だろうなぁ。いくら教えてもチンプンカンプンで先に進まなかったからだ。時給1万円貰ってもこっちのやる気までが失せてしまった。と愚痴をこぼしてた友人がいたっけなぁ)――

 

「天は二物を与えずだね」

「確かにスッピンも二物にちがいないね、わたしもそうなら良かったのに」

「いや、その薄化粧、充分綺麗じゃんか。男は皆、美人なら近寄るもんさ」

「ところでパイソンって何? 流行ってるんだって。なんか数学の知識を網羅して創り上げたコードで簡略形な上に失敗の少ない高度なソースプログラムから成るらしいよ」

「それをアルゴリズムってゆんだ。なんか文芸だか芸術とかの何何賞を受賞するよりよっぽどトクが多いんだぜ、詳しくいう機会があったら云うけどな」

スマホ出して! ハイ完了! これからは、うちらは友達以上―ォ!」

 

朝吹(令愛)と望月(豪)は。 

ハシヤ系のスパゲッティ店、まさに絶品。いろいろレシピがあってどれも病みつき、今日はりんご酢の効いた海鮮スパゲッティにチーズ粉とバジルをたっぷり掛け、口をモグモグご機嫌な令愛。 

相手はやたらにチリペッパーを掛けてる、味が誤魔化されて本来の味を飛ばしてることに気付かない素人の証拠。

「食べっぷりがいいね、男子みたいで。見てる方まで美味しくなってくるぜ」……健の真似をしてたらこうなっただけなのに。

「望月くん、食べないと冷めるよ」

「豪って呼んで」……何でそう呼ばなきゃならないんだ、厚かましい野郎だ……こゆ男多いよなぁ。

「豪くんて肉食系だよね」と、令愛は健と何故か比較していた。

「そうだ! 積極的な方が女子には都合がいいだろ」

「『いいだろ』って何が?」

「自分から口説かなくても、一から全部、唯待ってればいいんだから」

「フットワークが軽い肉食系女子、それが私だったら?」

「なお都合いいんじゃない」ニタニタする豪のかお付き。

「ぶつかるよ、自己主張が」

「う?」やっぱ豪は無神経なやつだ。

何だこいつ、意味が分かってない恋愛初心者マークかぁ。まぁ、そのうち分かるよ。

トイレから戻るとテーブルにアイスコーヒー。

「なぁー!俺んちへ来ない!? レア物のギターを聴かせてあげるよ。音楽って心の栄養になるだろ」

「あ、コーヒーノーサンキュー。その前飲んだ後急に眠くなったんよ」

「えぇ? 俺何も入れてないよ」何云ってんだか、訊かれてもないのに自分から『入れてないよ』と云うぅ? アホ!……ああ、コイツとは潮どきかもねぇ……所詮しょせんコイツもヤリモク目当てかよチェッ!

 

 

 チャンポン食べた―い! のメール。栄令奈からだった。

一か月前、駿台予備校で偶然彼女と出っくわした折り一緒に食べたことがあった。彼女は駿台中学部高校受験コースに通って、俺も同じ予備校同士で。自習室で話したことが切っ掛けとなって。

「らっしゃい!毎度ォオ!」

「えっと……」

「お客さん!チャンポンっしょ!」

「それ! どうして判ったんですか?」

「ウマウマ食べてたっしょ。一度見た客は忘れない! シッカリ客の心を掴まなきゃ。これが商売のコツってやつで」この攻撃性というか積極性は当に商売人。華僑かきょう朝鮮半島の人たち。

 食後はスィーツ!

「おれも餡蜜あんみつ!」

「珍し、男子で」

「旨いは旨い。人間は素直でなきゃ!大袈裟かなぁ」

「だよね! 皆んなそうなら良いのに」

「人はいろいろ。さっきのラーメン屋さん、きっと中国人か台湾人か、もしかしたら朝鮮系だね。だからね、したくても遺伝子ってのがあって思いと行動が伴わないんじゃないかな!?」

「ぁあなるほど、お相撲さんにもやけに挑戦的な人が居て、日本人のお相撲さんがコロコロ負けてるもんね」

「信長もね、やることがそっくり。だから漢民族朝鮮民族かもねぇ」

「へー、初めて知った。そういやー、目がつり上げってるもんね」

「あんま信用しないで、思い付きだから」

「いや、ホントな気がしてきたよ」

 

「あっ、えっとえっと……あった! これ見て!」とスマホを見せる健。

「ワオ―!スゴ! そんな人居たんだぁ。ってか、ゼッタイやだ! いくら夫婦になっても」

「でも避けられない事実だよ」

「うん分かるけど……。健さんならどうする?」

「やだよ!下の世話するなんて、しかも相手だってやに決まってら」

「うーん、考えちゃうよね」

「この人、岩下志麻ってゆ女優、19歳の時に恋愛をして結婚。当時ここまでになると想像して結婚なんかしなかったはず。しかし今90歳になろうとする夫のために、女優を辞めてまで老後の始末に尽くそうとする態度、何か教えれれる気がしない!?」

「一心同体ってこと?」

「だろうね。良い時も悪しき時も互いに助け合ってこそ、本物の恋愛って」

「格好いいねーえー」

「これもさ、人に因ってなんだろうなぁ。やれる人もいればやれない人も居て」

「わたしやれるよ!」

「俺も!」

「ところで誰をイメージして言っての? お姉ちゃん?」

「誰って……別に。まだ両思いの好きって云い合ったことないし」

「ぇえ!? 只の友だちってことなの?」

「そうさ。仲良しな友だち!」

「…………。私もなの?」

「…………。気にしない気にしない!! なるようになるって」

「うーん、つうか、恋愛をそこまで考えてする人はいないよ。だけど言われてみると恋愛の仕上げはそれもアリかなって。健さんのお陰で勉強になりました」

「勉強!?大袈裟な。って何が?」

「いろいろ」

「……誤解すんな。ガチ好きな関係になったら1人を深くな。これが基本だろう」

「それも!」

「それもって!? 栄令奈たんは何を云いたいの?」

「付き合い、恋愛、結婚、始末、の意味だよ」

心友は何人居てもいいんじゃない。その四つは心をこめて愛するようになるから、あっちの人、こっちの人、にしていたら嫌われちゃうよ。一人に全力であげなくちゃ、1人から全てを貰わなきゃ。1人の人が全宇宙の存在のようさ。心友を超えたらだけど」

「おねちゃん、このこと知ってる?」

「このことって?」

「今の話」

「訊かれてないから応えてないよ」

「好きって言われた?」

「好き好きってゆ言葉は信用しないんだ。好きってゆ行動がホントの好きだよ」

「うん。好きだけが恋愛じゃなくていろんなことが一緒に絡み合って成長できる! そんな恋をしたいなぁ」

「オ―!正当派意見。なら俺も、それが青春の目的さ! 人生のゴールさ! 愛の意義さ!」と云いつつも自信があるわけではなかった。が、今回改めて、それら四つがゆるやかに絡みあってこそ愛という名にふさわしい生き方かなって。

 

 

 健くんチーズケーキ好きだねえ。vs. 辛い物もね。

令愛は甘い者も辛い物も好きよ、体に成るものは偏っちゃいけねぇ。

「それって何でも云えるよね」

「そ! アソビ、勉強、恋だって」

「そうだよね、バランス良くってことでしょ」

「ウィウィ!!」

「ところで健くんの誕生日いつ?」

「もう過ぎた、9月1日だよ」

「じゃーあ! 今度の時には何が欲しい?」

「要らないよ。こうして仲良しで居られたらそれがプレゼントさ」

「妹はあげないよ」

「…………」 「何云ってんの。予備校友だよ。それに好きとかいう関係じゃないし。1人の心友ってこと!」

「好き! ってもし私云ったら?」

「好きは言葉じゃないから! 行動だから!」

「ホ―ォ、行動で何して欲しいの?」

「…………。あのな!」

 

 

 恋愛は決して好きだ嫌いだのゲームではない、人として成長していくのがエッセンスちゅうしんよ!

どうして「付き合う相手は1人」でなければいけないんだ? ハッキリこうだ! という答を聞いてみたいわ。

これを口すると余計なトラブルを生むぞという人が多いけど、それで好きに生きてると本当にいえるのか? 本当に愉しいのか? 

もちろん1人の人の方が良くなった時は結婚するし。かといってそれを恋愛だからって相手を縛るような生き方に何の意味があるだい?

結婚だってそうだ。今日何所へ行った? それからは? じゃスマホ見せて! 夫婦だから命令する権利がある! と一挙一動を気にする言動はいったい愛情といえるのだろうか?

云えません! 拘束といいます。

縛って得たモノがはたして愛といえるだろうか?

ながらの行為、義理の愛、見せかけの愛、そんなものはしたくないぜ。

 

より多くの人と絡んでいた方が教えらる事も楽しみも多いのだ。

一途だ! 一筋だ! 大恋愛は二人でするものだ! と勝手な枠組みを自分のうちにつくって恋愛を飾ってるようなもんだ。付き合って1年内の別れが多くなって、また真逆に何もかもが良く見え出し結婚したとしても三組に一組の割合の離婚となって、家庭内離婚を含んだら半数以上!? それ以上!? だ。

 

私もあなたも皆な、愛、そのものだ。

私たちの魂は、とこまでも自由だ、心を縛ることはできない。 

互いに思いやりを持ち、愛し合うことは、自由であることよ! 決して、矛盾しないことなの! 

愛には、いろんな形や、表現があるのよ。

愛するってことは、たいへんなのだよ、決まりはないし、限界もないのだから……愛は自由なのだ。

 

 その最悪の典型例があって。

19世紀文学を代表した文豪のトルストイさえ9男3女を設けた。

愛情があったからだ。

が、長年妻は家庭の仕事に没頭し夫も著作活動にのめり込み、そうなると妻からの愚痴も増え、双方共家庭を維持するよう務めてきた結果が、ついに妻からの年寄り虐待に及ぶことになって、とうとう耐えられず 82 歳のときに家出を余儀無くされた。

遠く離れた雪降る人里の駅舎で独り寂しく亡くなったという。妻は、子らを、家庭を、守るため夫にまでは充分な思いを致すことができなかったのかもしれないと云うかもしれない、子らも敢えて反論することはなかったという。本当だろうか。

夫とは、妻とは、何だろう? 親とは、子供とは、家族とは、何だ? 都合のよい存在だけなのか?

 歴代大統領のなかでも最も偉大な1人のリンカン第16代米大統領

その妻、メアリー・トッド・リンカーンは浪費家で、感情の起伏が抑えられなく、しばしばヒステリーを起こし、ホウキや棒で殴る、ナイフで追い回すなどの暴力だけでなく、不平・非難を浴びせ精神的にも苦しめたためリンカンが家に居ることが少なくなっていった。

腹立ちまぎれに、飲みかけの熱いコーヒーを夫の顔にぶっかけたこともあった。

仮に風采が上がらない夫のために、あえて妻はそうしたという者もいるが、若し自分がそうされたらどうするんだ!?

結婚とは子を育てることか?

寂しさを紛らわすためか?

戦友と称し傷をなめ合うことか?

 女性だって。経済力、愛し度、優しさ度、使用人度、加齢度、が徐々に悪化して往き被雇用者な扱い方をされたらどうするんだ!?

この国では何故、おまえ、おい、あんた、あなた、お父さん、お母さん、最後は、おじいちゃん、おばあちゃん、と呼ぶのでしょうか?

彼の国では、スイートハート、スイーティ、マイパンプキン、マイラブ、ベイビー、ベイブ、ハニー、ディア、と愛情と尊敬を込めた呼び方をするっていうのに。

日本は大多数の者が、そうすべき! と奴隷的な呼び方をする、無礼な物言いに何の抵抗もない、むしろ美徳とまで云うと開いた口がふさがらない。

根が深いのは社会全体が違和感を感じていないということだ。

愛情と尊敬のための恋だろ。そのための自由恋愛だ! 自由選択だったのだろう!

生き方を気取っちゃいけねーよ! 皆が云うから! 常識だから! で生きるな! 本音で生きなきゃー!

(決して三者だけが最悪例ではない。今でも、直ぐ傍で、居るという話が怖い)

 

「素直に生きなきゃ! 素直にさせてくれる人じゃなきゃ! これが愛と尊敬の基本さ」

「いつも健くんの言葉には魔法があるんよ。どんな意味は分からないけどいつも何処かに残っちゃうの……迷惑だよね」

「俺もだよ」 「じゃなく。魔法でもなく。リア世界の現実なんだよ!」と云うと急に真顔に令愛を見ている、言葉が留まらなくって一気に……。

付き合いも結婚もある種、契約、だよね。信義則だよね。一旦約束をしたら互いに相手の信頼や期待を裏切らないように誠実に守って行かなければならない『信義誠実の原則』なんだって。

日本は、これが美徳で精神的支柱だそうです、口のうわべでは。

アメリカは、美徳だけじゃ実益に反することがあるから『破ってもいい』んだって。

契約はどれも、経済活動や日常生活のコア(コアすまり中心となる部分)としてのルールだから、例えば、あなたと婚約します、しかしもっといい人が現れたから、その婚約は無かったことにします。これでアメリカ人は誰も文句を言わない。

日本なら、不誠実野郎! と非難されかねない。

むろん相手に及ぼした金銭的被害があった場合は払わなければならないが。

これが日本法にはないアメリカ法なんだって。

だから、愛は自由! 選択も自由! 今までの因習に囚われた愛の形は、只の束縛さ。

自己責任!? 違う! 無駄生きだ!

 

 

 五年後、健は係わっていた人たちとつづいていた。

令愛もおおむねそうであった。

健は今心うちに、令愛の胸から躍動を感じとった。

生きてる者の生の匂いだった。

 

(大恋愛をしよう。ほどほどに愛し合おう(ド真剣は発熱しすぎて壊れるからダメねぇ)。長く長く、少しくらい理想的じゃないときがあっても、久しく久しく、見つめ合ってゆこー!……)